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ウェルニッケ脳症を詳しく:原因・症状・検査・治療など

公開日: : 最終更新日:2018/07/23 体力・栄養

ウェルニッケ脳症とは

ウェルニッケ脳症(うぇるにっけのうしょう)とは、体内のビタミンB1が欠乏することによって意識障害や運動失調、眼球運動障害といった神経系の急性疾患を引き起こす病気です。

ドイツ人外科医で神経科学者でもあるカール・ウェルニッケ氏によってはじめて報告されたことから、この病名が名付けられました。

ビタミンB1は体内で糖分を代謝する際に欠かせない物質であるため、食事によって補う必要がありますが、ビタミンB1の摂取量が少ないことによって体内のビタミンB1が欠乏するとウェルニッケ脳症を発症します。

ウェルニッケ脳症は基本的にビタミンB1欠乏によって発症しますが、実際にはアルコールの大量摂取と関連して発症するケースが多く、日本国内における発症者の多くは20歳以上の成人です。

ウェルニッケ脳症の発症原因となるビタミンB1の欠乏を引き起こす要因として、アルコールの大量摂取が挙げられる理由は、アルコールを体内で分解する際にビタミンB1を消費するためです。

そのほかにもビタミンB1の吸収量が低下する下痢、摂取した食事から栄養素の吸収率が低下する胃の全摘手術、ビタミンB1の摂取量そのものが少ない食生活の乱れ、栄養状態が悪い患者に対してビタミンB1が含まれていない点滴の投与などもビタミンB1の欠乏を招く要因として挙げることができます。

実際にウェルニッケ脳症を発症した場合、初期段階では足のだるさや肩こり、飲酒時に記憶を失くすといった症状が現れます。

急性期には、突然眠ってしまう、せん妄(もう)、昏睡状態といった意識障害や、眼球が動かしづらくなることによって物が二重に見える複視(ふくし)、眼球が細かく震える眼振(がんしん)といった眼球運動障害、ふらつきや立ちくらみといった運動障害が現れます。

また、症状が進行し慢性期になると認知機能の低下やうつ状態などの症状が現れるほか、さらに進行すると物忘れが主症状となるコルサコフ症候群(こるさこふしょうこうぐん)を併発します。

ウェルニッケ脳症が進行しコルサコフ症候群を併発した場合、適切な治療をほどこしたとしても改善効果が期待できません。

そのため、できるだけ早く適切な治療をほどこすことが重要であり、確定診断を下すために血液検査や血糖値検査、腰椎穿刺、脳波検査、頭部MRI検査などを行います。

しかし、ウェルニッケ脳症は確定診断が難しい病気でもあり、実際にウェルニッケ脳症であると診断するには検査段階でウェルニッケ脳症であると疑えるかどうかが大事な要素となります。

また、検査の段階でウェルニッケ脳症と確定診断が下されていない場合でも、治療を開始する場合があります。

ウェルニッケ脳症の治療では、基本的にビタミンB1の投与を行います。
まずは、短期間でビタミンB1を補うため、大量のビタミンB1を静脈に投与します。

ビタミンB1大量静脈投与を数日間続けたあとは、日常的にビタミンB1を補給するために、ビタミンB1の経口投与を行います。

ウェルニッケ脳症はできるだけ早期にビタミンB1を投与すれば回復が見込めますが、コルサコフ症候群を併発するほど進行している場合には治療効果は望めないうえに後遺症が残るリスクが高い病気です。

そのため、少しでも異変を感じた場合、とくに飲酒時に通常の酔い方とは違いおかしいと感じた場合には、できるだけ早く医療機関で受診し、早期発見・早期治療に努めましょう。

ウェルニッケ脳症の原因

ウェルニッケ脳症を発症する原因は、ビタミンB1の欠乏です。
ビタミンB1とは、水溶性ビタミンの一種である栄養素で食物を摂取することで補うことができます。

このビタミンB1は、体を動かすエネルギー源となる糖質を代謝する際に必要であり、生きていくうえで欠かせない栄養素です。
とくに脳は、正常に機能するためのエネルギー源として糖質が欠かせないため、ビタミンB1を積極的に摂取することが重要です。

しかし、ビタミンB1の摂取量が少ないことによって欠乏してしまうと、脳が正常に機能しなくなり、脳の視床下部(ししょうかぶ)、中脳水道周囲(ちゅうのうすいどうしゅうい)、乳頭体(にゅうとうたい)などに病変が発生し、神経系の急性疾患であるウェルニッケ脳症を発症します。

ウェルニッケ脳症の発症原因となるビタミンB1の欠乏を引き起こす要因としては、アルコールの大量摂取をはじめ、下痢、胃の全摘手術、食生活の乱れ、点滴などが挙げられます。

アルコールの大量摂取

ウェルニッケ脳症は、アルコールを大量摂取した場合に発症するケースが多いです。

これは大量に摂取したアルコールを体内で分解する際にビタミンB1が消費されるためであり、さらにアルコールの大量摂取によって肝機能が低下することで糖質が体内に貯蓄されにくくなることもビタミンB1の欠乏を招く要因となります。

そのためウェルニッケ脳症は、日頃からアルコールを大量摂取しているアルコール依存症の方の発症率が高いという特徴があります。

下痢

長期間にわたり下痢を引き起こしていると、腸から吸収されるビタミンB1の量が低下してビタミンB1の欠乏を招くことがあり、ウェルニッケ脳症を発症する場合があります。

胃の全摘手術

胃がんなどの治療のために胃の全摘手術を受けたことがある方は、摂取した栄養素の吸収率が低下しやすくなります。

そのため胃の全的手術を受けた数年後にビタミンB1の欠乏を招き、ウェルニッケ脳症を発症する場合があります。

食生活の乱れ

ビタミンB1は食物から摂取することができますが、体内に貯蔵しておくことができる量が少ないため、できるだけ栄養バランスの良い食事を心がけてビタミンB1を補うことが望ましい栄養素でもあります。

しかし、インスタント食品ばかり食べるなど食生活が乱れている場合には、ビタミンB1の摂取量が少なく、ビタミンB1の欠乏を招きウェルニッケ脳症を発症する場合があります。

点滴

点滴は、衰弱した高齢者や妊娠中の悪阻(おそ)によって食事が満足にできない妊婦などにほどこす場合がありますが、こういった栄養状態が悪い患者に対し、ビタミンが含まれずブドウ糖の含有量が多い点滴をほどこすと、ビタミンB1の欠乏を招きウェルニッケ脳症を発症する場合があります。

ウェルニッケ脳症の症状

ウェルニッケ脳症を発症した場合に現れる症状は、初期・急性期・慢性期で異なります。

初期の症状

ウェルニッケ脳症を発症した初期段階では、足のだるさを感じる、肩こりといった症状が現れます。

また、ウェルニッケ脳症の発症にはアルコールの大量摂取が大きく関係しており、飲酒時に記憶を失くすといった症状も現れます。

ウェルニッケ脳症の急性期には意識障害、眼球運動障害、運動失調などの症状が現れます。

意識障害

ウェルニッケ脳症の急性期に現れる意識障害は、多くの場合には突然に現れるという特徴があります。

主な症状は、突然眠ってしまう、意識混濁に幻覚や錯覚の症状が加わるせん妄状態などがあり、悪化すると昏睡状態を引き起こします。

眼球運動障害

眼球運動障害とは、眼球が動かしづらくなる症状のことです。

主な症状は、眼球が動かしづらくなることで寄り目になってしまう外転障害(がいてんしょうがい)や、物体が二重に見える複視、眼球が細かく震える眼振などがあり、まれに眼球がまったく動かなくなることがあります。

運動障害

運動障害は、体のバランスをコントロールする役割を担っている小脳に障害が発生することで現れる症状です。
主な症状は、ふらつき、立ちくらみ、何かに掴まらないとうまく歩けないなどです。

意識障害、眼球運動障害、運動障害はウェルニッケ脳症の特徴的な症状ですが、3つすべての症状が現れる方は全体の約33%というデータがあり、実際に現れる症状の種類や度合いには個人差があります。

慢性期の症状

ウェルニッケ脳症の慢性期には主に認知機能の低下や物忘れ、うつ状態などの症状が現れますが、症状が進行すると物忘れが主症状となるコルサコフ症候群を併発する場合があります。

コルサコフ症候群とは、ビタミンB1の欠乏を原因とする脳機能障害によって、物忘れなどの健忘症状が現れる病気です。

ウェルニッケ脳症を発症後にコルサコフ症候群も併発した場合、ウェルニッケ・コルサコフ症候群という1つの病気にまとめる場合もあります。

ただし、コルサコフ症候群はウェルニッケ脳症と病巣が異なるため、基本的に別の病気であると区別されますが、ビタミンB1の欠乏が発症原因となる点や物忘れなどの健忘症状が現れるといった共通点があります。

実際にコルサコフ症候群を併発した場合、健忘症状によって忘れたことを作り話でつじつま合わせをするといったケースがよく見られます。
ただし、会話力や思考力といった知的能力の低下は現れません。

また、コルサコフ症候群を併発すると、過去の記憶と自分の妄想との区別がつかなくなる場合があります。

さらにウェルニッケ脳症は、適切な治療をほどこすことによって回復が可能ですが、コルサコフ症候群は基本的に回復が不可能であることから、ウェルニッケ脳症を発症した場合はコルサコフ症候群を併発する前にできるだけ早く治療をほどこすことが重要です。

ウェルニッケ脳症の検査・診断

ウェルニッケ脳症の検査は主に、血液検査、血糖値検査、腰椎穿刺(ようついせんし)、脳波検査、頭部MRI検査を行います。

血液検査

血液検査では血液を採取し、採取した血液中に含まれるビタミンB1の濃度を測定すると同時に栄養状態も確認します。

ウェルニッケ脳症は基本的にビタミンB1の欠乏によって発症するため、ビタミンB1の濃度を測定することで発症の有無を確認することができます。

血糖値検査

血糖値検査とは、血液中に含まれる血糖値の量を測定する検査方法のことです。

ウェルニッケ脳症は、ビタミンB1の欠乏によって発症する病気ですが、ビタミンB1は体内でエネルギーとなる糖分を代謝する際に欠かせない物質であり、ビタミンB1が欠乏すると体内で糖質が正常に代謝されません。

そのため、血糖値検査を行い、糖質の代謝状況を調べることで発症の有無を確認することができます。

腰椎穿刺

腰椎穿刺とは、腰の骨である腰椎に注射をすることによって髄液(ずいえき)を採取し、髄液中に含まれる成分内容を調べることで、さまざまな病気の発症の有無を確認することができる検査方法です。

ウェルニッケ脳症では、腰椎穿刺を行ったとしても異常は確認されず正常である場合が多いですが、ほかの病気と鑑別するために検査を行う場合もあります。

脳波検査

ウェルニッケ脳症を発症した場合、脳の視床下部、中脳水道周囲、乳頭体などに病変が発生します。

そのため、脳波検査を行うと約50%の方に軽度の全般徐波化(ぜんぱんじょはか)という変化を確認することができます。

頭部MRI検査

頭部MRI検査とは、電磁波や磁力を使って体の内部を輪切り状に撮影する画像検査の一種です。

ウェルニッケ脳症を発症した場合、脳の視床下部、中脳水道周囲、乳頭体などに病変が発生するため、頭部のMRI撮影を行うことで発症の有無や障害の程度を確認することができます。

ウェルニッケ脳症の診断において最も重要なことは、検査の段階でウェルニッケ脳症を発症している可能性を思いつくかどうかということです。

ウェルニッケ脳症は、発症すると初期、急性期、慢性期によって現れる症状が異なりますが、意識障害や眼球運動障害、運動障害などが現れる急性期以降に治療をほどこした場合、後遺症が残るリスクが高いというデータがあります。

そのため、足のだるさや肩こり、飲酒時の記憶喪失といった症状が現れる初期段階でウェルニッケ脳症を疑い、さまざまな検査によって確定診断を下すことが重要です。

ウェルニッケ脳症の治療

ウェルニッケ脳症はビタミンB1の欠乏によって発症するため、治療は基本的にビタミンB1を投与します。

ただし、ウェルニッケ脳症は確定診断が難しいことに対し、できるだけ早く治療をほどこさないと後遺症が残るリスクが高いため、確定診断が下されていない段階で治療をはじめる場合もあります。
実際に治療を行う際は、はじめに大量のビタミンB1を静脈投与し、そのあとで経口投与に切り替えます。

ビタミンB1大量静脈投与

ビタミンB1大量静脈投与とは、ウェルニッケ脳症を発症した全ての方に対し、はじめに行う治療法です。

この治療法では、ウェルニッケ脳症の発症原因となっているビタミンB1の欠乏をできるだけ早く補うために、大量のビタミンB1を静脈へ投与します。
ビタミンB1大量静脈投与は、症状が治まるまで長期にわたり行う治療法ですが、治療実績が多く高い効果を発揮します。

ただし副作用として、投与する薬物に対してアレルギー反応を引き起こし、発熱や目のかゆみ、発疹(ほっしん)、急激な血圧低下、呼吸困難、意識消失といったアレルギー症状が現れる場合があります。

さらに顔面のむくみ、喘息(ぜんそく)のような症状、喘鳴(ぜんめい)、頻脈(ひんみゃく)、ショック症状といったアナフィラキシー症状を引き起こす場合もあり、大量のビタミンB1投与後30分ほどは注意が必要です。

ビタミンB1経口投与

ビタミンB1経口投与とは、ビタミンB1大量静脈投与を行った数日後からはじめる治療法です。
ウェルニッケ脳症を発症したすべての方に対し、ビタミンB1を日常的に補うことを目的に、症状が治まるまで経口投与を続けます。

ただし、副作用を引き起こす場合があり、投与するビタミンB1に対しアレルギー反応を引き起こした場合には、発熱や目のかゆみ、発疹といったアレルギー症状が現れます。
また、アレルギー症状が重篤化すると急激な血圧低下、呼吸困難、喘息のような症状、喘鳴、頻脈、意識混濁、意識消失といったアナフィラキシー症状が現れる場合もあり、ビタミンB1の経口投与後30分ほどは注意が必要です。

とくに先天性IgA欠損症(せんてんせいあいじーえーけっそんしょう)を患っている方は副作用を引き起こしやすいため、慎重に投与し、症状が現れた場合は安静にして最低1時間は様子を見る必要があります。

ウェルニッケ脳症を発症した場合、早急にビタミンB1を投与するほど早い効果が得られるうえに予後も良好であるため、発症直後の初期段階での治療開始が望ましいです。

また、意識障害や眼球運動障害、運動障害などの症状が現れる急性期に治療を開始した場合、眼球運動障害、意識障害、運動障害の順で症状が改善しやすいというデータがあります。
とくに眼球運動障害は、ビタミンB1を投与後数時間から数日以内に改善する場合が多いです。

ただし、症状が進行した慢性期に治療を開始した場合には、十分な効果が得られずに後遺症が残る場合が多く、コルサコフ症候群を併発している場合にはビタミンB1を投与したとしても効果が得られません。

ウェルニッケ脳症が完治した場合、再発を予防するために生活習慣を見直す必要があります。
ウェルニッケ脳症はビタミンB1の欠乏によって発症するため、日頃からバランスの良い食生活を心掛けるようにしましょう。

また、ビタミンB1を多く含む豚肉やナッツ類、穀類の胚芽などを積極的に摂取することも効果的です。
妊娠中の悪阻で栄養不足に陥っている妊婦の場合は、サプリメントでビタミンB1を補給するようにしましょう。

さらにウェルニッケ脳症は、大量のアルコール摂取も発症に大きく関係しているため、アルコールの摂取を控えることも重要です。

ウェルニッケ脳症は命に関わるような重篤な病気ではありません。
しかし、初期段階での確定診断が難しいうえに、進行してから治療をほどこすと後遺症のリスクが高い病気でもあります。

少しでもウェルニッケ脳症の発症リスクを防ぎ適切な治療をほどこすには、日頃から食生活に気を付けるとともに、少しでも異変を感じた場合はできるだけ早く医療機関で受診し、早期発見・早期治療に努めましょう。

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