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糸状虫症(フィラリア症)を詳細に:原因,症状,検査,治療,予防など

公開日: : 最終更新日:2018/02/21 感染症, 寄生虫症

一般的にはバンクロフロト糸状虫(しじょうちゅう)によって引き起こされる病気です。

現在の日本では根絶されており、輸入感染症の一つとして知られていますが、1980年代以前は九州から沖縄までの列島南部に広く分布して発病の原因となっていました。

蚊(か)によって媒介されるのが特徴で、感染してから3ヶ月から1年ほどで充分な成熟期間を終えます。

糸状虫の名のとおり、糸のような細長い見かけをした虫がリンパ節、またはリンパ管のなかに寄生することから発病します。

この虫はオスが約4センチから17センチ、メスが約8センチから28センチの体長をしており、わかりやすく言えばそうめんのような細長い形状をしています。

寿命は虫のなかでは長めの4年から5年と言われています。
人間だけではなく、犬にも見られる病気として知られています。

糸状虫症(フィラリア症)の原因

糸状虫症(フィラリア症)の90%ほどは、フィラリア属のバンクロフロト糸状虫が原因となりますが、このほかにもマレー糸状虫が症状を引き起こす虫として知られています。

まず、フィラリアの幼虫を体内に抱えた蚊が人を刺すことで幼虫が人の体内に侵入します。

この幼虫が人のリンパ節・リンパ管に移動して成虫になる過程でリンパに重篤なダメージを負うことになるのです。

成虫は何千匹とも言われる膨大な数の幼虫を産み落とし、この幼虫が生息する血液を蚊などの中間宿主が人から人へ媒介することで感染が拡大していきます。

幼虫はミクロフィラリアと呼ばれ、現代では主に熱帯・亜熱帯の地域で蚊に刺されることから感染し、これらの地域の73カ国、約1億2000万人以上の人が苦しめられていると言われています。

大半は子ども時代の虫刺されによって感染し、成長したあとに症状があらわれる傾向があると考えられています。

感染リスクの高い地域

熱帯・亜熱帯に属する地域にまたがる国が感染リスクの高い地域とされており、全世界のうち実に73カ国でこの病気の脅威が身近にあります。

アジア、アフリカ、カリブ海、西太平洋、南アメリカの一部など広範囲にわたり感染の可能性があります。

感染者の約65%は東南アジアに、約30%はアフリカに、残りはほかの地域に分布していると言われています。

旅行をする際に注意したいこと

もし、感染リスクの高い地域に旅行などで訪れる機会があるならば、充分に感染予防のための対策を講じなければなりません。

具体的な予防策は「虫に刺されないようにする」こととなります。
そのために宿泊施設の窓の状態がどうなっているかをしっかりと確認します。

網戸は設置されいるか、窓を開けずに過ごすことが可能なようにエアコンを設置しているかなどがチェックポイントです。
持ち込む衣服もできるだけ露出を避け、長袖、長ズボンなどを選び皮膚が表に出ないように工夫します。

どうしても網戸やエアコンのない宿泊施設に滞在することになった場合や、現地で屋外に出る場合には、虫除けの有効成分が含まれる薬剤を皮膚の露出している部分や、場合によっては衣服に塗布します。

とりわけ注意したいのは頭、足や手の指、脇の下、ウエストなどです。
日本ではおなじみの蚊取り線香なども有効でしょう。

日本での撲滅のための活動

1980年代以前までは、日本でも身近にある脅威として知られていました。
とくに沖縄地方は「フィラリアの浸淫地」と言われるほどで、県民の約3分の1が保虫者という調査結果があったほどです。

1936年には、フィラリアが驚異的な虫であること、また沖縄県民の健康を脅かすことが判明していましたが、防ぐための予算がなかったために1949年ころまで実質放置の状態に置かれました。
再び調査がおこなわれたのは戦後の1949年、沖縄県宜野座村でのことでした。

そこからさらに本格的な調査と予防のための対策がとられたのは1964年のことでした。
きっかけは米国立法院でフィラリア防圧事業案が成立したことで、まずは沖縄県宮古島での調査と検査、予防のための活動が開始されました。

宮古島の住民の99%が検査に協力し、うち19%に陽性の反応が認められました。
特効薬として「スパトニン」が投与されたことで、ミクロフィラリアの82%が消滅に至ります。

スパトニンの投与は1966年と1967年にも実施され、本格的な予防策の開始から13年後の1978年に沖縄県全体での保虫率0%を達成しました。
日本での撲滅活動の成功を記念し、1988年11月には宮古島の保健所に記念碑が建てられました。

糸状虫症(フィラリア症)の症状

糸状虫症(フィラリア症)は、感染後すぐに症状が引き起こされるわけではありません。

感染したのち、約9ヶ月から1年ほどの長い潜伏期間を経てようやく症状があらわれます。
どういう症状が起こるのかに関しては、38度から40度の高熱とともに、足のリンパ節の炎症や腫れや痛みの症状が見られます。

初期症状ではほかにも痛みを伴う皮膚の発疹(ほっしん)などもあります。
高熱は4日から1周間程度続き、その後は落ち着く傾向がありますが、問題は次第に繰り返されて慢性化していくことです。

症状の進行と慢性化が起こると、皮膚組織の繊維の増殖と乾燥によって皮膚が象のもののように硬く乾いた状態になる「象皮病」や、男性患者の場合はリンパ管の詰まりでリンパ液がたまる「陰嚢水腫」など、生殖器に関わる症状も知られています。

糸状虫症(フィラリア症)の検査・診断

虫のメスがミクロフィラリアと呼ばれる幼虫を産み出すことから、血液中にミクロフィラリアが存在するかどうかを確認します。
具体的な方法は採血での検査となります。

ミクロフィラリアの特徴として活動時間帯が夜間(午後10時から翌日2時程度のあいだ)なので、この時間帯に血液を採取しなければならないとされてきましたが、近年では検査キットが非常に優れたものになっており、採血の時間帯を気にすることなく少量の血液からの検査と診断が可能となっています。

糸状虫症(フィラリア症)の治療

体内にいる虫を駆除することが治療の第一歩とされます。
まずは特効薬である「スパトニン」と呼ばれる駆虫薬(くちゅうやく)で血液の中に潜む糸状虫の駆除をおこないます。

虫の駆除だけではおさまらないリンパ管炎や象皮症、また生殖器に関連した症状の治療は、それぞれに適切な方法で処置がおこなわれます。

リンパ管炎には抗菌薬を用いた治療を、象皮症には患部のマッサージに加え弾性包帯を用いた治療をほどこします。
抗菌薬ではドキシサイクリンなどが有効であるとされています。

弾性包帯での治療

弾性包帯での治療は象皮症のほか、足のむくみなどの解消にも用いられる治療法です。

目的は患部に巻いてほどよい圧迫を与える圧迫療法と、圧迫を与えながら運動することでの効果を期待するものです。

弾性包帯を用いた象皮症やむくみの治療には、加えてマッサージがおこなわれることが多いでしょう。

患部のチアノーゼやしびれなどに注意しながら、多少の圧迫を与える感覚で巻いていきます。

弾性包帯を巻いたあとはそのまま足首を動かしたり、歩いたりするのが効果的とされています。
圧迫した状態で運動を加えることにより、筋肉がポンプの役目を果たしリンパ液の体外への排出が促されるのです。

似たような治療法に弾性ストッキングを用いたものなどもありますが、弾性包帯のメリットは女性だけではなく男性の治療に役立てやすいことや、患者の状態に合わせて巻き方を変えることで圧迫の強度を適したものにすることができる点です。

フィラリアは人間だけがかかる病気ではない

フィラリアと聞いて、犬を飼っている人は「犬の病気」とイメージすることのほうが多いかもしれません。
日本での人の糸状虫症(フィラリア症)は根絶されているので、あながち間違ったイメージではないかもしれません。

実は、人のフィラリアは日本国内での心配がほぼない時代になっていても、犬のフィラリアは現代も身近な危険として存在しています。

人であっても犬であっても、寄生虫の一種であるフィラリアに感染することが原因となる基本的な部分は同じです。
体内に入り込んだ寄生虫は最終的に犬の心臓や肺動脈を目指し、住処(すみか)とします。

急性と慢性

犬のフィラリアには急性症状と慢性的な症状があります。

急性フィラリアで見られる主な症状

赤褐色の尿が出る、明らかに元気がなくなる、呼吸困難の症状が見られる、白目や歯茎などが黄色っぽく濁る黄疸(おうだん)が見られるなどの症状が特徴的です。

慢性的なフィラリアの症状

気管支静脈の血流の変化による咳(せき)、息切れしやすくなる、肝臓や腎臓の障害があらわれる、腹部に水がたまってしまう「腹水(ふくすい)」の症状が見られる、水を異常に求める、四肢がむくんでいるように見える、好きだった散歩を嫌がるようになる・行きたがらなくなるなどの症状があります。

急性にしても慢性にしても、そのまま変化を見過ごして放置すると、最終的には死に至るものなので、かかりつけの獣医にすみやかに相談してください。
人の言葉を話すことのできない大切な家族のために、日頃から様子をチェックすることを欠かさないでください。

室外飼育による感染リスク

犬の場合は屋内での飼育よりも屋外での飼育のほうが感染リスクが高まります。

理由は犬は人のように衣服を着て肌の露出を避けることができない、外での飼育により蚊に遭遇する率が高くなるなどが挙げられます。
また、山や河原が近所にあるなど、水辺や藪が身近な環境でも感染リスクが高まります。

山や河原とは無縁の都会であっても犬を室外で飼育しており、さらに庭に池やバケツ、じょうろなど水がたまりやすいものの放置をしている、ガーデニングが趣味であるなどが重なると、身近に蚊が発生しやすい状況であると言えます。

バケツやジョウロなどの狭い水辺でもボウフラは充分に成長します。

ガーデニングの場合も鉢植えの下に置いている受け皿にたまった水をそのままにするなど、ボウフラが発生しやすい状況をつくっていないかを確認する必要があるでしょう。

犬のフィラリアの予防薬

実は「予防薬」と言っても、実際にフィラリアに感染することを予防することはできません。

予防薬として知られているものは正しく言えば「駆虫薬」(くちゅうやく)であり、犬の体内に侵入したフィラリアを駆除するためのものとなっています。

予防の効果はないにしろ、体内に潜むフィラリアをすみやかに駆除する効果はありますから、犬が苦しまないために必要な薬です。

フィラリアに感染してすぐに死に至るわけではなく、血管や心臓が詰まることで血液が流れなくなってしまうことでやがて死亡してしまう病気です。

そのため、継続的に駆虫薬を用いて症状の悪化を防ぐことがポイントとなります。
蚊の発生を確認後、遅くても翌月から駆虫薬を飲ませましょう。

そして蚊がいなくなったと思った翌月まで継続します。
この間に駆虫薬を与えることを中断した期間があった場合には、一度獣医のもとで検査を受けさせるとより安心です。

場合によっては、駆虫薬で駆除できたフィラリアの死骸が血管に詰まるケースも考えられるので、そのような可能性も視野に入れたケアが大切になってきます。

犬のフィラリアや駆虫薬について相談できるかかりつけの動物病院を見つけておくこともポイントとなるでしょう。

近所にフィラリアを患った犬がいるかもポイント

フィラリアは蚊を媒介して感染する病気なので、もし近所にフィラリアにかかった犬がいた場合は特に注意しなければなりません。

動物病院ではそれらの情報提供もおこなうでしょうでしょうから、きちんとチェックしておくのをおすすめします。

また、残念なことに駆虫薬や蚊の除去などを意識的におこなわない飼い主もいるため、潜在的なフィラリアが身近に潜んでいる場合もあるかもしれません。

そのようなときに犬を守るためにも、やはり普段からのケアを考えてあげるのが望ましいでしょう。
犬がフィラリアにかかる原因のほとんどは「飼い主の責任である」と考えられています。

フィラリアを患った犬との接し方

激しい運動を控えさせ、散歩も以前より落ち着いたものにするようにしましょう。

病気にかかったからといって放置するのではなく、今までどおりに声をかけ、かわいがってあげてください。
犬は言葉を話せませんが、人の態度などには比較的敏感です。

毎年数ヶ月間の駆虫薬の投与で深刻な症状を防ぐことが可能な病気ですから、うちの犬は大丈夫だろうと考えずにきちんと薬を飲ませてあげるのが一番です。

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