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慢性血栓塞栓性肺高血圧症を詳細に:原因,症状,検査,治療など

公開日: : 最終更新日:2018/03/02 肺・気管支の病気

慢性血栓塞栓性肺高血圧症とは

人間が生命を維持するためには、息をすることで肺から大気中の酸素を体内に取り込まなければいけません。
ただ、息をするだけでは体内に酸素を取り込むことはできません。
肺から取り込んだ酸素をいったん心臓に戻し、さらに体全体へと送る必要があります。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(まんせいけっせんそくせんせいはいこうけつあつしょう)を説明するうえで重要なワードとしては、血栓症(けっせんしょう)と塞栓症(そくせんしょう)があります。

血栓症というのは、血管内に血液のかたまりである血栓が形成されることであり、塞栓症というのは血栓の一部が血管からはがれて血流に乗り、別の場所にある血管を詰まらせてしまう塞栓ができることをいいます。

また、肺動脈(はいどうみゃく)も慢性血栓塞栓性高血圧症と非常に関わりが深いものです。
肺動脈は心臓から肺へと血液を送り込む血管のことであり、この血管に血栓・塞栓が発生して肺動脈の血圧が異常に高まるのが、慢性血栓塞栓性高血圧症です。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、シーテフ(CTEPH:chronic thromboembolic pulmonary hypertension)ともよばれており、指定難病に認定されています。

肺動脈の血圧が高まるのは、血栓・塞栓が肺の血管に詰まってしまうことにより、異常に狭まり、かたくなって血流が悪化するためです。
体に必要な酸素を届けるには、心臓から送り出される血液量を一定以上に維持しなければいけません。

狭まった血管に無理やり血液を流そうと心臓が懸命に働くため、肺動脈の血圧が高まります。
ただ、どうして慢性血栓塞栓性肺高血圧症が引き起こされるのかは、現状では解明されていません。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症では肺と心臓の血流が悪化するため、息苦しさ、倦怠感(けんたいかん)、胸の痛みなど種々の症状が出現します。

患者数や発症年齢、性別に関してですが、まず国内の患者数は、特定疾患の認定を受けた人だけで2010年度は1,288人、2011年度は1,590人、2012年度は1,810人、2013年度は2,140人、2014年度は2,511人と年々増加しています。

認定を受けていないケースを入れると、慢性血栓塞栓性高血圧症にかかっている人の数はこれより多く、この先も増えていくと予想されています。

発症年齢に関しては、年齢の高まりと共に患者数が多くなっているのが特徴で、40~80歳代、なかでも60~70歳代が多く、ピークは70歳代です。
海外では男女差はありませんが、日本では女性のほうが男性と比較して2倍以上の人が慢性血栓塞栓性肺高血圧症にかかっています。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の原因

なぜ慢性血栓塞栓性肺高血圧症にかかるのか?

この病気がどうして引き起こされるのか、その原因は現状において解明されてはいません。

エコノミー症候群(えこのみーしょうこうぐん)ともよばれている、静脈などで形成された血栓が血流に乗って肺の血管を詰まらせて、急に呼吸困難やショックなどが生じる急性肺血栓塞栓症(きゅうせいはいけっせんそくせんしょう)の人が慢性血栓塞栓性高血圧症に進展したり、はっきりとした症状がないまま慢性血栓塞栓性肺高血圧症を引き起こすケースもあります。

エコノミー症候群が慢性血栓塞栓性高血圧症に進展する場合は反復型(はんぷくがた)、はっきりした症状がないまま引き起こされる場合は潜伏型(せんぷくがた)というわけかたがされています。

また、血栓が発生しやすい病気としては、血液がかたまりやすくなる血液凝固異常(けつえきぎょうこいじょう)、発生した血栓が溶けにくくなる線溶系異常(せんようけいいじょう)、心疾患、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)などが存在しますが、慢性血栓塞栓性肺高血圧症にかかった人は、このような病気にかかっていない人が多くいます。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は遺伝するのか?

プロテインC、プロテインS、アンチトロンビンという、血液がかたまるのを阻止する因子が生まれつき欠乏しているため、血栓症が起こりやすい家系の人が、慢性血栓塞栓性肺高血圧症を招くことがあります。
ただ、基本的には親から子、孫へと受け継がれてしまうようなことはありません。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症による心臓への影響

肺動脈の血圧が高まった状態で、肺に必要なだけの量の血液を供給するためには、心臓のなかにある部屋のひとつである右心室(うしんしつ)が過度な力で押し出す必要があり、これによって右室肥大(うしつひだい)という右心室の筋肉の厚みが増す異常が起こります。

この状態が持続していると、右心室の収縮力が低下し、右心拡大(うしんかくだい)という拡大したまま縮めなくなる異常が起こります。

さらに悪いと右心室の機能そのものが弱まる右心不全(うしんふぜん)に進展し、肺に十分な量の血液を供給することができなくなってしまいます。
そしてその結果、体全体の酸素や血液が足りなくなり、種々の症状が引き起こされるようになるのです。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の症状

慢性血栓塞栓性肺高血圧症に特別な自覚症状はあるのか?

慢性血栓塞栓性肺高血圧症に限って引き起こされるような、特別な自覚症状はありません。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は肺の血管に異常が起こり、心臓に大きな負担がかかり、それによって体全体へと酸素をうまく届けられなくなる病気です。
はじめの頃は、安静にしているときに症状は出現しません。

しかし、人間が体を動かすときの酸素の需要量は増加し、この需要を満たすことができなくなってしまうのが慢性血栓塞栓性肺高血圧症であり、病気が悪化してくると、それによる症状が引き起こされるようになります。

したがって、自覚症状が出たときには、すでに病気がある程度は進行している可能性がある、というわけです。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の初期症状

階段をのぼる、重たい荷物を持つなどの労作時(ろうさじ)に息切れを起こしてしまったり、息苦しいと思ったりするようになります。

また、急に呼吸困難を起こしたり胸が痛んだりすることがあるほか、脚の腫れや痛みの症状が引き起こされることもあります。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症が進行して出現する症状

次第に息切れや息苦しさがひどくなり、咳(せき)が出る、一時的に意識を消失する失神(しっしん)を引き起こすなどの症状が出現することがあります。

肺から出血した場合には痰(たん)に血液が混じる血痰(けったん)の症状や、発熱の症状が引き起こされることがあります。

そのほか、心臓の右心室の機能が低下すると、腹部に水が貯留する症状や、体内に水分がたまることによる体重の増量、脚のむくみなどの症状が引き起こされます。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の検査・診断

診察

慢性血栓塞栓性肺高血圧症かどうかを調べる場合も、ほかの病気を調べる場合と同様に、まずは問診、聴診、視診といった診察からはじまります。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の人は、息切れの症状を自覚して病院を訪れることが多く、最初にこのような症状やこれまでの経過をドクターに聞かれることになります。

さらに心臓や肺の音を聞く、手足や顔のむくみなどを確認し、階段をのぼる・重たい荷物を持つなど体を動かしたときの息切れが、別の病気によって引き起こされているものではないかどうかを考えます。

肺機能検査

診察の結果、この病気の可能性ありと判断された場合には、肺を調べる検査が行なわれており、そのなかのひとつがこの肺機能検査です。

筒を口にくわえて鼻をつまみ、息を吸ったり吐いたりする方法で、呼吸の量や速度を調べることにより、肺機能の状態を把握することが可能です。

動脈血ガス分析

肺を調べる検査のひとつで、血液を採取します。
この検査では、血液中の酸素や二酸化炭素の濃度を調べ、呼吸機能の障害の度合いなどを把握することが可能です。

胸部レントゲン検査

画像検査の一種で、胸部X線検査ともよばれています。
胸部レントゲン検査では、肺だけでなく心臓の状態を調べることが可能です。

たとえば肺の状態、肺動脈の拡張のほか、心臓の拡大の有無などを把握することができます。

心電図検査

心臓を調べる検査です。
心臓は収縮と拡張を繰り返すときに微弱な電気を発しており、胸に電極を貼り付けることでこの電気を感知して波形として描出するのが心電図検査です。

この検査で特徴的な波形が描出されないかチェックし、病気の進行を把握することが可能です。

心エコー(心臓超音波検査)

心臓を調べる検査の一種であり、高周波数の超音波を心臓に届け、返ってくる反射波のエコーを受け取り、心臓の様子を画像化する検査です。

超音波を発するプローブを体の表面にあてて行なう検査で、心臓の形、動き、血流などを確認し、どれだけ心臓に負担がかかっているのかを把握することができます。

また、血流を確認することにより、おおよその肺動脈の血圧を算出することも可能です。
こうした検査を行なうことにより、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の可能性が高いと判断された場合には、以下のような精密検査が行なわれています。

肺換気・血流シンチグラフィ

わずかな量の放射性同位元素が含まれている薬を吸入するか静脈注射をして、薬から放出されるわずかな放射線をカメラで撮影し、画像を調べる方法です。

この検査では肺の血液や空気の流れの障害がどれほどのものなのかを把握することが可能です。

血液の流れに異常がない場合には、慢性血栓塞栓性肺高血圧症を起こしていない確率が上昇します。

MRI検査

画像検査の一種であり、放射線ではなく体に磁気をあてることによって、体の任意の断面を画像化する検査です。

MRI検査を行なうことにより、心臓の機能や形態を把握することが可能なほか、肺動脈の内側に血栓が生じていないかを調べることができます。

CT検査

画像検査の一種であり、いろいろな角度からX線をあて、その通過量をコンピュータで解析し、画像化する検査で、造影剤が使用されるケースもあります。

CT検査を受けることによって、心臓の機能や形態を把握することが可能なほか、肺動脈の内側に血栓が生じていないか確認することもできます。

右心カテーテル検査

先端にバルーン(風船)が取り付けられたカテーテルという細く柔軟な管を首などから挿入し、心臓を経由して肺まで進めます。

肺動脈まで達したところでバルーンを拡張させることで肺動脈の血圧を測定することができるほか、心臓から送り出される血液量を調べることも可能です。

さらに肺の血流量や肺血管の抵抗などを把握することも可能であり、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の診断のためには重要な検査です。

肺動脈造影検査

造影剤を肺動脈に流すことにより、X線撮影を行ないます。
この検査によって、肺動脈の内側に発生している血栓の位置を把握することが可能です。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、以上のような検査の結果をもとに、診断を下すことになります。
また、精密検査は手術を選択するかどうかといった治療方針の決定にも役立てられています。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の治療

手術療法

肺動脈のなかに発生した溶けにくい状態になっている血栓を取り除く、肺動脈血栓内膜摘除術(はいどうみゃくけっせんないまくてきじょじゅつ)という方法があり、この手術はPEA(pulmonary endarterectomy)ともよばれています。

動脈は内側から内膜(ないまく)、中膜(ちゅうまく)、外膜(がいまく)の三層構造になっていて、肺動脈血栓内膜摘除術では肺動脈を切開し、この動脈の内膜と共に血栓を取り除く形になります。

なお、この手術を行なうことが可能な施設は限られており、別の重篤な病気が一緒に起こっている場合、高齢の場合は受けることができません。

また、血栓・塞栓の存在する位置や程度によって手術が行なわれないことがあるほか、受けたあとにも病気が残ってしまうリスクや、再発を招いてしまうリスクがあります。

カテーテル治療

内側が空洞になっている細く柔軟なカテーテルという管を使用する治療です。
一口にカテーテル治療といっても複数の方法が存在しますが、主な方法としてはバルーン肺動脈拡張術(BPA:balloon pulmonary angioplasty)をあげることができます。

このカテーテル治療の場合、先端にバルーン(風船)が取り付けられたカテーテルを首、腕、脚などの血管から挿入し、血栓が発生しているところまで進めていきます。

そして血栓のあるところでバルーンを拡張させて、血流を確保します。
カテーテル治療も手術と一緒で、高い技術を備えているドクターのいる特定の施設でのみ行なわれている方法です。

薬物療法

抗凝固薬(こうぎょうこやく)、肺血管拡張薬(はいけっかんかくちょうやく)、利尿薬(りにょうやく)、強心薬(きょうしんやく)などが使用されています。

抗凝固薬は血液をかたまりにくくすることにより、血栓が形成されるのを阻止する薬のことであり、肺血管拡張薬は肺の血管をひろげて圧を低下させ、肺や心臓にかかる負担を緩和する薬です。
そのほか、利尿薬は尿量を多くして血液量を少なくすることにより、心臓にかかる負担を緩和する薬で、強心薬は心臓の収縮力を上昇させる作用のある薬であり、この強心薬や利尿薬は右心不全に対して使用されています。

酸素療法

家で酸素吸入を持続的に行なえる在宅酸素療法(ざいたくさんそりょうほう)が選択されることがあります。
なお、在宅酸素療法はHOT(home oxygen therapy)ともよばれています。

この病気が進行すると血流が悪化し、血中酸素濃度が落ち、血中酸素濃度が落ちた状態は慢性血栓塞栓性肺高血圧症を悪化させ、息切れや呼吸困難を引き起こします。

このような問題に対処するため、酸素療法は行なわれているというわけです。

下大静脈フィルター留置術

下半身からの血液を集めて心臓へと送る役割を担っている下大静脈に、フィルターという網のような装置を挿入する方法です。

フィルターを留置することにより、血栓がはがれて流れてきたときに、フィルターがその血栓を捕まえてくれるという効果が発揮されます。
血栓が再発するケースで、下大静脈フィルター留置術が検討されます。

肺移植

生きた人間の臓器を摘出して患者に移植する生体移植(せいたいいしょく)、脳死の判定がされた人の臓器を摘出し、患者に移植する脳死移植(のうしいしょく)があります。

重症のケースで検討されることはあるものの、国内では盛んに行なわれているわけではありません。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の人が日常生活で注意すること

自分に合ったペースで生活を送る

慢性血栓塞栓性肺高血圧症を引き起こした人のなかには、症状次第ではこれまでと変わらない暮らしを送ることに困難を感じる人もいるでしょう。

仮にこのような問題に直面したときは、自分の病状に合ったペースを探りあて、継続していくことが大事です。

たとえば家事は一気に片付けるのではなく、休憩を挟みながらこなしていく、重たいものはできるだけ持たないなど、余裕のある暮らしを送っていきましょう。

治療を続ける

慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対し的確な処置をほどこさずにいると、肺や心臓だけにとどまらず、病気の影響を体全体が受けることになってしまいます。

体の調子の変化や治療のしかたなど、医師と十分に話し合いながら治療を継続しましょう。

負担の軽い動作をする

ハードな運動はせず、日ごろから無理な動作をしないように注意しましょう。
息切れは階段の上り下りだけでなく、立ったり座ったりすることなどによっても引き起こされることがあります。

イスやベッドなど洋式の生活スタイルのほうが、座布団や布団など和式の生活スタイルと比較すると、負担は軽くなります。
また、家族など身近な人にはこの病気のことをわかってもらって、支えてもらいましょう。

急激な温度変化を避ける

自宅で過ごしていても、場所によって温度差が大きいと肺や心臓にかかる負担が大きくなってしまいます。

リビングは暖かくても、廊下、洗面所や脱衣所、浴室やトイレなどが寒ければ、コンパクトなタイプの暖房器具を使用するなどして、温度差をなるべくなくしましょう。

また、浴室の温度が低ければ、はじめに温かいシャワーで浴室の気温を高めたうえで入浴すると肺や心臓への負担を軽減することが可能です。

食生活の見直しをする

塩分や水分の摂り過ぎは心臓にかかる負担を大きくする原因になります。
とくに右心不全を起こしている状態では、減塩食や水分制限などの生活指導を受けることになります。

また、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の治療で使用する薬のなかには、その効果に影響をおよぼす食品があり、摂取は避けなければいけません。

そのほかに気をつけること

妊娠や出産は、肺高血圧や心不全の状態を悪くするリスクがあるため、あらかじめ医師と話し合いましょう。

また、タバコを吸うことは慢性血栓塞栓性肺高血圧症にとって害悪でしかないため、喫煙習慣がある人は禁煙は不可欠です。
それから、抗凝固薬などすでに使っている薬がある人は、必ず医師や薬剤師にそのことを伝えましょう。

運動に関しては、医師の許可があれば軽い運動は行なえますが、その場合には無理をするのは厳禁です。
運動の可否、運動の種類、運動の強度や頻度などは、医師の判断をあおぎましょう。

相談を受け付けている機関

各都道府県には、公的機関として難病相談・支援センターが設置されています。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症で、普段の暮らしのなかで心配なことのほか、仕事の継続が困難になったり、治療後に仕事を再開したりすることに関して情報が欲しい場合には、問い合わせをしてみるとよいでしょう。

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